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「ソーシャル・マトリクス/ペーター・ヴァイベル回顧展を見て」瀧健太郎<その2>

 ところで、彼はロックバンドを組織し、政治的なメッセージを音楽で行っている。「Hotel Morphila Orchester」と名づけられたそのバンドでは、ヴァイベルはヴォーカルを担当し、歌とマイクを頭で叩くパフォーマンスなどを行っている。また80年代にはコンピューターを使用した、デジタル・ビデオからメディアアート領域と呼ぶべき一連の実験を行っている。 最後のセクション「若き俳優としての作家ポートレート」では、若きヴァイベルが劇映画で俳優を演じている。

車から顔を出してチンピラのように話しているシーンでは、胡散臭さたっぷりな役がぴったりだ。"UNSICHTBARE GEGNER"(「見えない敵」/1977)という題のこの映画は、ヴァリー・エクスポートが監督し、ヴァイベルは脚本と出演をしている。真夜中過ぎまで続いた上映は、この作品で観客の拍手喝采を受け終了した。taki200504-pw-system.gif   

 Meyer Rieggerギャラリーでは、「ソーシャル・マトリクス、作品群1965年―1979年」と題されたヴァイベルのインスタレーションの作品などが展示された。 

 中でも興味を引かれたのはカメラを二台使用した観客参加型のビデオ・インスタレーションである。 

 図に示したように、壁に貼られた紙に印刷された矩形を写しているカメラ①と、部屋の角を利用して描かれた矩形を写しているカメラ②の二つの映像が、ケーブルを繋いだだけの単純な結線でモニターに繋がれている。モニター上には二つの矩形が繋がって、透過された三角錐のような図形が出来上がる。③ 

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 観客がカメラ②の前に立つと、その上にカメラ①の画像が重なることになるので、ちょうど観客が立体的な三角錐の中に入り込んでいるような形になる。④ ビデオの信号を混線させただけのシンプルな構造と、観客が三角錐のラインというフレームに納まってしまう様が、何とも言えない不思議な感覚にさせる。 

 手法を露呈する形式だが誰しもが楽むことができ、単純明快にして非常にハっとさせられた作品であった。こうしたカメラとモニターを使ったビデオ・インスタレーションは70年代に多く作られているが、現在では見る機会やそうした作品への記録や言及が少なく、またそれを行う作家もいない。 

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  ヴァイベルは様々な方法でメディアの構造を露呈させ、またそれを社会的な問題にまで押し上げるという創作活動を徹底して行ってきた。つまり彼は映像制作を可能とした様々なビデオ技術や機器を、単にその機能を紹介するのではなく、社会的な機能を暴露するという制度への対抗手段として表現してきたのだ。  

 ところでヨーロッパで面白いのは、ヴァイベルのように政治的な言説や、過激な活動ともとれる前衛作家が、国立のメディアアート研究所の所長に抜擢されているところだ。彼らはアーティストの先見性に非常に敏感であるし、まただからこそメディア芸術などの新しい試みが表現や思想と密接な関係で繋がっている所以なのだろう。ともすればメディア芸術が新製品や新技術の見本市となってしまい、それゆえに政治的作品やアクティヴィズムは無視され、換骨奪胎されてしまうこともある。特に、日本においては。 

(たきけんたろう ビデオアーティスト) 

関連WEBサイト: ZKM / Meyer Riegger Gallery